ソフトウェア開発プロジェクトの成功率

Scott W. Ambler の Survey

スコット・アンブラー(Scott W. Ambler)氏は定期的にITプロジェクトの Survey を出してくれています。

アンブラー・スコット と言えば、ディシプリンド・アジャイル・デリバリー(DAD)、アジャイルモデリング(AM)、アジャイル統一プロセス(AUP)、エンタープライズ統一プロセス(EUP)などで有名な方ですね。

ここではその結果を拝借してIT プロジェクトの成功率 を見てみます。

調査結果

173 の回答のうち、25% が 500名以上のIT組織に勤務(2013年度集計分)。

プロジェクトの成功を以下の基準で集計

  • Successful:ソリューションが提供され、成功基準を満たした
  • Challenged:ソリューションが提供されたが、成功基準の許容範囲を完全には満たさなかった
  • Failed:ソリューションが提供されなかった

プロジェクトの分類を以下の基準で集計

  • Traditional:ウォーターフォールなどの段階的プロセスのソフトウェア開発プロジェクト
  • Ad-Hoc:定義されたプロセスに従わないソフトウェア開発プロジェクト
  • Iterative:RUPなどの反復的なソフトウェア開発プロジェクト
  • Agile:Scrum、XP、Disciplined Agile Delivery(DAD)などのソフトウェア開発プロジェクト
  • Lean:Kanban、Scrumban などのソフトウェア開発プロジェクト

f:id:Naotsugu:20170207000509p:plain

2011年の集計は以下

f:id:Naotsugu:20170207000521p:plain

考察

プロジェクトの成功基準はプロジェクトそれぞれの定義になるため、統一的な定義はできません。 プロダクトの品質、納期やスケジュール、ROI(投資収益率)など全てにおいて高い要求があるプロジェクトもあれば、そうではないプロジェクトもあります。

ですので、この数字だけで個別のプロジェクトを判断するものにはならないと思います。

その上で、大きな傾向として見比べると、集計結果からは両方の年で Traditional・Ad-Hoc 組と、反復・適応の Iterative・Agile・Lean 組で傾向が割れています。

Traditional・Ad-Hoc 組は Failed の割合が常に2桁なのに対し、それ以外は1桁となっています。 プロジェクトの規模の要素が無いなかで話すのは公平ではないとは思いますが、ウォーターフォール型はプロセスを定義していないアドホックなプロジェクトと同等の成功率に見えるのは興味深いですね(アドホックにやってもそれなりに上手くいくもんだなぁと)。

2013 年の集計では Lean が最も成功しているという点も興味深いですね。

CHAOS Report

米国の調査機関である Standish Group の CHAOS Report(2014) ではどうなっているかも見ておきましょう。

調査結果

大企業から中小企業を含む365社(ITエグゼクティブマネージャー)、8,380 のアプリケーション

業種は 銀行、証券、製造、小売、卸売、卸売、ヘルスケア、保険、サービス、地方、州、連邦組織

プロジェクトの成功を以下の基準で分類

  • Success:期間内、予算内で完了し、最初に予定した全ての機能を備えた
  • Challenged:プロジェクトは完了たが、期間や予算を超過し、最初に予定した全ての機能は実現できなかった
  • Impaired:開発サイクルの途中でプロジェクトがキャンセルされた

組織の大きさによる分類で、最右が全体です。

f:id:Naotsugu:20170207225909p:plain

考察

大企業で成功したプロジェクトはたった9%ということでシビアな結果ですね。

全体で見ても成功確率は16%で、およそ30%のプロジェクトは途中で頓挫するとなっています。

さらにレポートの中では、失敗するプロジェクトが10年前、5年前と比較して増えているとしています。大きく失敗したプロジェクトは10年以上前は17%、5年以上前では27%とテクノロジの成熟にもよらず悪化していると言っています。

レポートの中にはプロジェクトの成功要因や失敗要因についても言及しています。

プロジェクトの成功要因について見てみましょう。

f:id:Naotsugu:20170207233015p:plain

ユーザーの関与・経営幹部のサポート・要件の明確な陳述・適切な計画 で半分を占めています。

これらを抜きにして、近年のプロジェクトの成功は難しいということになるかと思います。

失敗要因としては、 不完全な要件 13.1%、ユーザーの関与の欠如 12.4%、リソースの不足 10.6% 、非現実的な期待 9.9%、エグゼクティブサポートの欠如 9.3% などが上げられています。

まぁそうだろうなぁ、という感じですね。

まとめ

米国におけるITプロジェクトの統計を2つ見てみました。

いずれも、IT業界はまだまだ稚拙で未成熟なものだということが痛感できるものではなかったでしょうか。

より複雑化、大規模化するプロジェクトの中で、技術の入れ替わりも激しく、我々は何ができるのでしょうか。 10年前、20年前と比べてこの業界は良くなっているのでしょうか。 良く考えてみなければなりませんね。


ディシプリンド・アジャイル・デリバリー エンタープライズ・アジャイル実践ガイド (Object Oriented SELECTION)

ディシプリンド・アジャイル・デリバリー エンタープライズ・アジャイル実践ガイド (Object Oriented SELECTION)

  • 作者: Scott W. Ambler,Mark Lines,藤井智弘,熱海英樹,天野武彦,江木典之,岡大勝,大澤浩二,中佐藤麻記子,永田渉,西山泰男,三宅和之,和田洋
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2013/06/22
  • メディア: 大型本
  • この商品を含むブログ (6件) を見る